舞台「幕末太陽傳外伝」ネタバレ感想
推しの初主演公演!にして、川島雄三監督生誕100周年プロジェクト公演。
原作は1957年公開の「幕末太陽傳」。そもそもこの映画自体が落語と史実を掛け合わせて作られた作品らしいので、主人公の佐平次は落語家の数だけ存在する…らしい。
幕末モノの時点でソワソワしてたけど、想像以上に余韻がすごかった。クロガラスの時もおんなじようなこと書いたけど、これもまぁ銀魂通ってきてる人間にはぶっ刺さるぶっ刺さる。…たぶん銀魂の方がこの頃の映画のセオリーを踏襲してるからなんだろうけど。(映画史に関しては疎いのでめちゃめちゃ勘で言ってる)
ものすごくざっくりまとめると、世話になった友人を労うためにお大尽を装って遊郭遊びに興じた主人公・佐平次。実際のところは無一文だったので、支払いのためにそのまま店の下働きとして居残って何のかんのとその座敷の女郎や志士たちと絡んでく…という話。
この佐平次がめちゃめちゃ愛嬌があってすごく良い。ただのお調子者かと思いきや、目端が利いて、口八丁で侍とやりあって、命大事にがモットーで生きざまがめちゃめちゃ格好いい。終始明るく振る舞ってはいるけど、佐平次は生い立ちも苦労があったみたいだし、肺を患っているせいもあってか、端々で危うさとか儚さが見え隠れする。だからただのいい奴で終わらなくて、持ち前の面倒見の良さも手伝って、気づけば自然と周りから信頼が寄せられてて、作品を観てるこちらもいつの間にか彼から目が離せなくなってる。
そして何より推しのべらんめぇ口調が思いのほか可愛い。めちゃくちゃ可愛い。かわいいんだ、これが!!!
佐平次の愛嬌と推しのそもそもの愛嬌とがいい具合にシンクロして、なんかもうほんとダメ。あれは観ててうぐぐ…ってなる、素晴らしい。最高。(語彙がどっか行く)
顔筋の使い方もあるのか、輪郭もなんかいつもよりちょっとふわっとしてるし、アドリブもノってた。わりと冒頭に佐平次の恒例アドリブポイントがあって、そこはそのシーンより前で誰かが入れてきた内容を踏襲してることが多くて、私が観た中で一番ツボったのは「ぼ~く~佐平次~」
……青いネコ型ロボットの幻影が見えたよ~~~~ヒ~~~~~。(あと贔屓目に観て初代に結構似てる)
あとはミッ●ーとド●ルド真似も似てました。さすが千葉民。クワックワしてた回は気に入っちゃったのか、その後の別のシーンでもやってたので、そういうのを差し挟める余白のある作品だったのも楽しかった。(クワックワで共演者の不安を煽る推し)
単なる喜劇の要素が前面に出てきてるのに、一枚薄皮を剥いだだけで、あの時代特有の刹那的で儚くて危ういものが見え隠れするので、結構考えさせられるところも多かった。のんべんだらりと暮らしていていいのかな、なんていう焦燥にかられる。
この作品に出てくるキャラクターはみんなそれぞれ、時代の波とか、境遇とか、そういうものに翻弄されてる部分があって、それをどうにかしようとすると本当に労力を必要とするようなそういうものを抱えてて。
自らの運命やはたまた社会すら変えようともがく人もいる中で、今や天涯孤独に近くて、肺も患っててっていう、自分の現状を受け入れながらも、その境遇を不幸だなんて思わずに生きてくにはどうすればいいかな?って行動してるのが佐平次という人物だった気がした。しかもそれって何もしないってこととは明らかに違ってて、もしかしたら変えようともがくことよりも難しいことかもしれない。
時代の英傑でも徳の高い人というわけでもない、何処にでもいるひとが佐平次のはずなのに、実際にああ生きることはきっとすごく難しい。
挿入歌の歌詞に「死神を振り切るまで走れ」ってあるんだけど、本編観終えてから聞くと、佐平次がその歌詞を歌い上げること自体が結構切ない。目に見える形の「笑い」の部分と、そういう切なさを持ち帰ることになるから、たぶん満足度が高い作品だったんだろうなぁと思う。
それから、佐平次が高杉晋作の未来の姿(肺を患う点で)でありながら対比のキャラクターであるところと、置屋の一人息子・徳三郎も佐平次の対比なのかな、と感じたりもした。
「金で命が買えるなら、喜んで親のすねをかじりましょう」と啖呵を切るところ、お金があっても幸福というわけではない、そういう境遇がイコールだったり対称的だったりで、クライマックスへ向けていいスパイスになってたと思う。
Wikipediaによると、原作映画には川島監督が本来撮りたかった幻のラストシーン構想があるらしく、恐らく舞台のラストシーンで佐平次が客席へ飛び出していって後方ドアへ消える演出はそのオマージュなのではないかと思った。何なら冒頭の語り~客席で立ち回る演出も、映画冒頭で(映画公開)当時の品川の映像を映して始まるのと類似意図の演出ではないかと。
フィクションの物語だけど、かつて佐平次(のように生きたひと)はいたかもしれないよね、そう思わせられると、余計に明日からも頑張って生きていこう、ってストンと自分の中に入ってくるというか、湧いてくるというか、作品と自分の人生が繋がる感覚がするのがすごく良い作品を観れた満足感に繋がってる気がする。
推しの初主演作がこの作品で良かったな~~ってすごく思ってる。
佐平次さんにまた逢いたいよ~~~自分的に最大回数観たつもりだけどもっと観たかったよ~~~
#崎山つばさ
#幕末太陽傳外伝
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